The Best of 2008

存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)

存在の耐えられない軽さ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-3)

今年読んだ中でいちばんよかった本、ということでミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』を推したいと思う。文学部の出来の悪い学生の手になるレポートのようなものを書くこともできないわけではないのだが、それは冬休みの宿題にさせてもらうとして、この小説は昨日観た『秒速5センチメートル』と妙なリンクがあって、どこか「重さ」を付与したくなるような運命を勝手に感じた。
僕たちは一度しか生きられない。その一度性・一回性というものの中で、思想・信条と現実・時間というものと対峙していかなければならない。Aを選べばBを選ばなかったことになるが、どちらを選んでも選ばなかった方について考える可能性は完全に閉ざされている。僕らはそのAという現実を生きるしかない。そこにどのような現実的制約・個人的信条が関係していようと、その存在の軽さと重さには何の影響も与えないのだ、いやもっと正確を期して言えば、そこには重さも軽さもないのだ。その軽重の概念こそが、「存在の耐えられない軽さ」を現前せしめている当のものなのだから。